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【星街すいせい】『Stellar Stellar』は現実に立ち向かう物語【Still Still Stellar】

この文章は2021.9.29配信『【祝!アルバム発売】アルバムについて徹底解説⁉【ホロライブ / 星街すいせい】』を聞く前に書いている。
本人の口から語られるアルバムの裏話は気になって仕方がないが、それよりも先にアルバム曲について自身で味わい、咀嚼したいと考えたから、まだ配信を聞いていない。

現在2021.9.30午前中。書き終わったら流星の速さでアーカイブ聞きに行きます。


【Stellar Stellar】
私はこの曲を“星街すいせいの人生讃歌”だと感じた。


『星街すいせい』の軌跡を“シンデレラストーリー”と例えるファンやメディアを、これまで幾度となく目にしてきた。個人勢という立場からVtuberの最前線まで駆け上がってきた彼女を表現するにはぴったりの言葉であると思う。

でも私は彼女の軌跡を“シンデレラストーリー”と形容するのはもう止めることにした。
その気付きを授けてくれたのが他でもない、アルバム表題曲『Stellar Stellar』。

この曲の歌詞に『そうだ僕がずっとなりたかったのは 待ってるシンデレラじゃないさ』というシンデレラに対する否定的な主張が直接述べられているが、私が感銘を受けた箇所は別にある。

『夢見がちなおとぎ話』、ここである。
「夢見るおとぎ話」ではない。『夢見がちなおとぎ話』だ。

「夢見がち」は、夢のようなことばかり考えている様や、空想的で甘い様を表す。夢ばかり浮かべてふわついている様子を皮肉交じりに表現した、やや否定的な言葉だ。

『夢見がちなおとぎ話』、この言葉が否定的な意味を孕んでいるとすれば、肯定しているのは「厳しい現実」に他ならない。彼女は『夢見がちなおとぎ話』という言葉を通して、この「厳しい現実」を受け入れ、まっすぐ見つめているように感じた。

そして、そんな姿がリアリストな彼女らしいとも思っている。
これまでイノナカミュージックに参入するときのアプローチを初め、彼女の色々なエピソードを聞いてきた。今までの躍進は巡り合わせもあるだろうが、星街すいせい彼女自身の行動によって掴み取ってきた物事に他ならないだろう。
星街すいせいの軌跡は、シンデレラのように立派なカボチャの馬車に乗せてもらったわけでもなければ、美しいお城の階段を歩いたわけでもない。彼女自身の足で、先も分からぬ荒野を踏み進んだものだと思っている。
それでも彼女は遂に全国流通1STアルバムという一つの目標に辿り着いた。1STソロライブの開催も一カ月を切っている。彼女自身の足で切り開いた末に辿り着いた黄金卿だ。

そしてその黄金卿も、彼女にとっては通過点に過ぎないだろう。
おとぎ話以上の夢を見られる『星街すいせい』の物語を紡ぎ続けて欲しいと願いつつ、その彗星の煌めきに置いて行かれないよう追いかけていきたい。


好きな歌詞がまだまだ沢山あるので、もう少し語らせて欲しい。

『今宵音楽はずっとずっと止まない』、この箇所も良い。
おとぎ話中のシンデレラは0時になると魔法が解けてしまうので、煌びやかな舞踏会から逃げるように立ち去らなくてはならない。深夜0時で魔法が解けてしまう運命に踊らされ、彼女は自身で運命を変えられない。
それに対して『今宵音楽はずっとずっと止まない』はどうだろうか。
夜が続く限り鳴り続ける音楽。いつまでも彼女のステージは終わらない。
シンデレラの他人任せな運命と対比したようなシチュエーションから、自分の運命は自分で切り開くという強い意志を感じた。


シンデレラの話題とは切り離して、好きだった箇所も述べる。
『夜を歌うよ』
とこまちラジオで「朝嫌いだな~って気持ちで書いた」なんて話していたのは聞いたが、私自身で勝手に解釈させてもらいます。

一般的に「朝」という言葉は希望的な意味で用いられることが多い。「夜明け」という言葉で表現されることも多いだろう。
しかし彼女はそんな朝が訪れる前であり、朝のイメージと対比して暗い意味で用いられがちな夜という言葉を借りて、「夜を歌うよ」と主張している。この箇所は、夜を肯定的に捉えているようなニュアンスを覚える。

そしてこの夜を讃えるような「夜を歌うよ」という主張から、定められた考えに縛られず、自分の考える幸福を自分で掴み取るんだ、という確立した自己意識が伝わってきた。


最後に『夢見がちなおとぎ話』と同じくらい感銘を受けた箇所について記す。

『僕だって君と同じ 特別なんかじゃないから』
これもまた『夢見がちなおとぎ話』と同じように、リアリストな彼女のスタンスが織り込まれていると思っているが、その意味合いや、言葉を投げかけている対象が違っているように感じている。

先に挙げた『夢見がちなおとぎ話』は星街すいせいの生き様の宣言。不特定多数、または虚空に投げかける自身の主張であるように聞こえる。歌い方こそしとやかだが、そのワードチョイスからは、過酷な現実に対して「負けねぇぞ」とニヒルな笑みを浮かべながら中指を突き立てるような気概が伝わってくる。

一方で『僕だって君と同じ 特別なんかじゃないから』は言葉を投げかける「君」という対象が明確に存在する。過酷な現実を憂う誰かに対して、「自分だって何でも完璧なわけじゃないし特別強い人間でもない。立ち上がろう。一緒に頑張ろう」と手を差し伸べるような慈愛の心を感じる。

また、『僕だって君と同じ 特別なんかじゃないから』の前には約物(文中の線)で囲われた独白のような歌詞がある。
『壊せない壁があったんだ』『部屋の隅で膝を抱えて震えていた』『太陽なんていらないから 明けないでいて』。まるで何かに怯えるような様子が綴られている。
考えれば考える程に溢れてくる未来への恐怖。不安に押しつぶされそうな眠れぬ夜。これらは星街すいせいの『陳腐なモノローグ』なのかもしれない。
そんな彼女が今スポットライトを浴びて眺めるステージ上の景色は、決して特別でない陳腐な過去が原点にあると言っているように感じる。彼女もまた、現実を必死に生き抜いてきた普通の人間なのだと。

だからこそ彼女のエールには説得力がある。自分の未来を自分で切り開いていく大切さを、身をもって示してくれている。そのメッセージ性を『僕だって君と同じ 特別なんかじゃないから』という歌詞から感じた。


改めて、『Stellar Stellar』は星街すいせいの人生讃歌であると私は思った。
1stソロアルバムという節目に当たって過去を振り返り、その轍を見つめた上で「自分は間違ってなかった」と力強く頷く彼女の姿が浮かんでくるようだ。そしてこの1stソロアルバムも、彼女の長い長い轍の一部になることだろう。

『星街すいせい』の音楽はきっときっと止まない。